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大阪地方裁判所 昭和31年(行)84号 判決

原告 角圭治

被告 大阪府天王寺府税事務所長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、「被告が原告に対する昭和三〇年度随時不動産取得税の滞納処分として昭和三一年五月二八日別紙目録記載の物件についてした差押処分は無効であることを確認する。被告は原告に対し、金八、〇〇〇円及び内金五、〇〇〇円に対する同年七月一七日以降、内金三、〇〇〇円に対する同年一一月一七日以降各支払済に至るまで年五分の割合の金員の支払をせよ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、「被告は、原告において昭和三〇年度随時不動産取得税額二五、四〇〇円の滞納ありとして、これが徴収のため、昭和三一年五月二八日原告所有にかゝる別紙目録記載の動産を差押えた。ところで、右税金は、原告が昭和三〇年一一月三〇日訴外浅田義守から大阪市浪速区大国町一丁目九四番地宅地二八八坪のうち九六坪を買受け、その所有権を取得したことを理由として原告に賦課されたものであるが、右宅地を右訴外人から真実に買受けたものは、原告ではなく、訴外茶野正、及び同本並某の両名であつて、原告はたゞ右茶野の依頼に基いて、登記簿上、原告がこれを買受けたこととして、同年一二月三日その旨の所有権移転登記手続をしたに過ぎないのであるから、原告は仮装名義人であつて、もとより、右宅地に対する不動産取得税の納付義務を負担するものではない。従つて、原告を右宅地所有権の真実の取得者として、被告が原告に対してした前記不動産取得税額二五、〇〇〇円の賦課処分は違法であり、かかる違法な賦課処分に基ずく右滞納処分は無効であるというべきである。なお、右のように、原告は前記税額二五、〇〇〇円の納付義務はないのであるが、被告が原告に対し、右差押処分に引続き公売処分通知までしてきたため、その義務あるものと誤信し、被告に対し、昭和三一年七月一六日に金五、〇〇〇円を、同年一一月一六日に金三、〇〇〇円をそれぞれ右税金の内金として納付した。右金額計八、〇〇〇円は、原告が被告に対し、納付義務がないのに納付したものであるから、不当利得として、被告から原告に返還さるべきものである。よつて、原告は被告に対し、右滞納処分の無効確認、並びに右金八、〇〇〇円及び内金五、〇〇〇円に対する右納付の日の翌日である昭和三一年七月一七日以降、また内金三、〇〇〇円に対する同じく同年一一月一七日以降各支払済に至るまで年五分の割合の遅延損害金の支払を求める。」と述べた。

被告訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決を求め、答弁として、「原告主張事実中、被告が原告主張日時、その主張のような差押処分をしたこと、原告が、その主張のように、不動産取得税額二五、〇〇〇円の内金として、被告に対し、二回に亘り合計金八、〇〇〇円を納付したことはいずれも認めるが、その余の事実は否認する。原告は昭和三〇年一一月三〇日訴外浅田義守から前記大阪市浪速区大国町一丁目九四番地宅地二八八坪全部を買受け、同年一二月三日その旨の所有権移転登記手続を了しているのであつて、原告の取得した土地は、その主張のようにそのうちの九六坪ではない。それ故に、被告は右二八八坪の固定資産課税台帳登録価格たる金八四六、七二〇円に対する法定税率一〇〇分の三に相当する金二五、〇〇〇円を不動産取得税額として原告に賦課したのである。以上のように、原告は右宅地所有権の真実の取得者であるが、仮にそうでなくして、その主張のように、仮装名義人であるに過ぎないとしても、民法九四条二項により、これをもつて善意の第三者たる被告に対抗することはできない。」と述べた。

理由

被告が原告に対する昭和三〇年度随時不動産取得税額二五、四〇〇円の滞納処分として、昭和三一年五月二八日原告所有にかゝる別紙目録記載の物件を差押えたことは当事者間に争がない。

そこで、右差押処分が無効であるかどうかについて判断する。原告はこれが無効の理由として、被告の原告に対する前記不動産取得税賦課処分が違法である旨主張する。原告のいう違法の意味は明確を欠くが、要するに、原告は後記宅地二八八坪の所有権を真実取得したことがないのに、被告はこれありとして、原告に対し、前記税額二五、〇〇〇円の賦課処分をしたのであつて、かゝる賦課処分は当然無効であるとの趣旨に解される。

そこで、右賦課処分が当然無効であるかどうかについて考えてみるに、原告が昭和三〇年一一月三〇日訴外浅田義守から大阪市浪速区大国町一丁目九四番地宅地二八八坪のうち九六坪を買受け、同年一二月三日これが所有権移転登記手続を了した旨の登記簿上の記載あることは原告の自認するところであり、右宅地二八八坪のうちその余の一九二坪についても、右同日、右と同じ売買を原因として、原告名義に所有権移転登記手続がなされ、その旨の登記簿上の記載あることは原告の明らかに争はないところである。

原告は、右宅地を右訴外人から買受け、真実にその所有権を取得したものは訴外茶野正外一名であつて、原告は仮装名義人に過ぎない旨主張するのであつて、不動産取得税は真実の不動産の権利取得者に賦課さるべきものであることは勿論であるけれども、反証のない限り登記簿上の所有権取得者を以て真実の所有権取得者であると推認するのを相当とするところ、原告は本件宅地の仮装名義人に過ぎない事実について何等立証しないから、原告が右宅地の所有権を取得したものと認めるを相当とする。それ故被告が原告に対してした右不動産取得税賦課処分には何等瑕疵なきものというべきである。

そうすると、右賦課処分の無効を前提とする原告の滞納処分無効確認請求、及び不当利得返還請求は、その余の判断をするまでもなくいずれも失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 入江菊之助 日高敏夫 小湊亥之助)

(別紙省略)

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